遺留分|FP1級Wiki
遺留分とは、相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産のこと。侵害されない相続人の権利ともいえます。基礎編でも割と出題頻度が多く、実技試験では事業承継対策として除外合意と固定合意という「遺留分に関する民法の特例」が特に重要になります。どのくらい重要になるかというと、将棋で言えば飛車と角、北斗の拳で言うならフウガとライガ・・・いや、やめましょう。
また、遺留分算定基礎財産の考え方と相続税の課税財産の考え方の違いを理解しましょう。
事業承継対策の特例については納税猶予の特例もあり、そちらも重要ですが、それは別の項目で。
遺留分権利者
相続人であり、配偶者、直系尊属、直系卑属(代襲含む)であること。(兄弟姉妹には権利がない)
遺留分の放棄
遺留分の放棄は生前に行うこともできる。遺留分を放棄してもそれ以外の相続人としての権利は失わない。
家庭裁判所の許可が必要になる。死後の放棄の場合は許可不要。
遺留分算定基礎財産
遺留分を決めるための基礎となる財産。被相続人の相続時財産に、生前贈与した財産を加え、そこから債務の全額を差し引いて導き出します。
贈与の時期については相続税計算の時の生前3年間とは違って、10年と長いので注意。
遺留分算定基礎財産=相続開始時の財産+相続人への贈与(10年以内)+第三者への贈与(1年以内)-相続債務
遺留分の割合
相続人が直系尊属だけ(配偶者もいない)の場合は基礎財産合計の3分の1、それ以外の場合は2分の1が遺留分の総額となり、それを法定相続割合で分配するイメージです。
なお、遺留分を放棄した者がいる場合でも、ほかの遺留分権利者の遺留分割合は増加しない。(相続の放棄とは違う)
遺留分侵害額請求権
遺言や生前贈与で遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求権を行使できます。遺留分侵害額請求権は意思表示するだけで良く、遺留分の侵害を知った時から1年以内、もしくは相続開始から10年以内に請求をしないと権利は消滅する。
遺留分侵害額=遺留分-特別受益の額-相続によって得た積極財産(プラス財産)+相続によって負担する債務
令和元年改正により、受遺者が請求された金銭を準備できない場合、当該受遺者は裁判所に対して金銭債務の全部または一部の支払につき、一定期間の猶予を請求できる。
また、遺留分侵害額請求権によって生ずる権利を金銭債権化することになりました。それにより、会社の権利が変な持ち分になったりせず、例えば権利はすべて長男の物。その会社の遺留分に値する部分の価値を債権として他の相続人に金銭で支払う、といったことができるようになりました。
遺留分に関する民法の特例(経営承継円滑化法)
特例中小企業者の事業承継は、財産が事業の後継者に集中するため遺留分を侵害してしまいがちです。そこで事業承継をスムーズに行うために、後継者が旧代表者から取引相場のない自社株式の贈与を受け入れる際には2つの特例が使用できます。
なお、特例対象の自社株式は、贈与株式の全部でも一部でも可能。2つの特例の組み合わせも可能です。ただ、後継者が所有する自社株がすでに総議決権数の50%を超えている場合は特例の適用外になります(最初から過半数持ってたら目的と違っちゃうから)
除外合意
中小企業の社長は多くの場合、現金資産や預貯金よりも自社株が資産の割合を占める場合が多く、たくさんの株が旧代表者から後継者へ贈与で渡されると将来発生する相続で遺留分を侵害する可能性があります。そんなとき、贈与する際に推定相続人と合意し、除外合意の対象とすれば当該自社株式を遺留分算定基礎財産に含めなくなり、その対象から外すことができます。
固定合意
遺留分算定基礎財産というのは、原則相続開始時点の評価額になる。そのため、株式などの場合、価格の変動で相続財産に影響を及ぼしてしまう。すると事業承継した後継者がその後、会社の経営に努力すればするほど自社株の価値が上昇し、相続発生時に親族へ支払う遺留分が大きくなってしまうというジレンマが発生してしまいます。承継会社の発展に影響を及ぼさないために固定合意が存在します。
固定合意を適用すると、対象株式の遺留分算定基礎財産の価額を合意時点の評価額で固定することができ、後継者の貢献などで株価が上昇しても基礎財産の価額に反映されないことになります。
自社株式以外の財産を遺留分算定基礎財産から除外
除外合意、固定合意の話し合いを進める際に、自社株以外の財産についても除外合意をすることができる。固定合意はできません。
手続き
特例を利用するためには、先代経営者の推定相続人全員(遺留分を有する者)と後継者で合意をし、合意書(公正証書でなくて構いません)を作成し、1カ月以内に経済産業大臣の確認をとり、家庭裁判所の許可を得ることによって適用されます。申請は後継者が単独で行います。
条件
旧代表者の要件
- 特例対象中小企業者の元代表者または現代表者であること
後継者の要件
- 合意時点で特例対象中小企業者の代表者であること
- 旧代表者から当該株式を贈与により取得した者であること
- 贈与を受けることで総株主の議決権の過半数を有すること
- 推定相続人以外の者でも適用できる(身内である必要はない)
会社の要件
- 中小企業者であること
- 合意時点で3年以上継続して経営を行っている非上場企業であること
遺留分に関する民法の特例(個人事業主)
2019年度税制改正で個人事業主に対しても遺留分の特例が適用できるようになりました。中小企業と同じく、旧代表者、後継者、推定相続人全員で合意書を作成し認定支援機関の確認を得たうえで1カ月以内に経済産業大臣の確認をとり、家庭裁判所の許可を得ることによって除外合意が適用できるようになります。個人事業主版では固定合意は利用できません。
個人事業主には自社株は当然存在しませんので、事業用資産が対象となります。
事業用資産
除外合意の対象となる事業用資産とは、土地、建物、減価償却資産(機械、車両、生物、特許権など)などの事業に必要な資産全般である。
条件
旧代表者の要件
- 合意又は贈与の時点までに3年以上事業を営んでいたこと
- 承継する事業に係る事業用資産を全て贈与したこと
後継者の要件
- 合意時点において個人事業者であること
- 旧代表者からの贈与等により事業用資産を取得したこと
外部リンク:国税庁
それでは過去問を解いてみましょう。2021年9月試験 学科 問45
遺留分に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
- 推定相続人の1人が相続開始前に遺留分の放棄をした場合、その者は、その相続に関して、初めから相続人とならなかったものとみなされる。
- 推定相続人の1人が相続開始前に遺留分の放棄をした場合、他の相続人の遺留分の額は増加する。
- 遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与の範囲は、原則として、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産(非課税財産を除く)に限られる。
- 遺留分権利者は、受遺者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるが、受遺者が金銭を準備できない場合、当該受遺者は、裁判所に対して、金銭債務の全部または一部の支払につき、一定期間の猶予を請求することができる。
.
.
.
解答
4
1は、遺留分の放棄なので相続人じゃなくなるわけじゃありません。
2は、これまた割合が変化するわけじゃないんで、その人は自分の相続分が遺留分割り込んでもいいッスよって言っただけなの。さーせん。
3は、遺留分の算定は10年です。侵害額請求も10年。遺留分、10年ひと昔です。
4は、最近出来ました。少し待ってあげないとね♪