損益通算・繰越控除|FP1級Wiki
損益通算の対象となるものでも一部除外されているものがあります。損益通算には手順があるので順番の間違いにも注意です。
損益通算
損益通算とは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得(ごく一部)の計算上生じた赤字の額を、他の黒字の所得から差し引く(通算する)ことをいう。
ちなみに同じ所得の種類内で通算することを内部通算という。
損益通算の対象とならない損失の金額
上記以外の所得(配当・一時・雑所得の損失の金額)は対象外
※利子所得・退職所得はそもそも損失を生じることがない
①不動産所得の損失の金額のうち、土地等所得の負債利子に係る部分の金額
土地等の取得に係る負債の利子、または不動産所得の損失の金額のうち、いずれか少ない金額は損益通算の対象とならない。土地付建物を取得した場合で、土地・建物の別に負債の額を区分することが困難であるときは、その負債の額はまず建物の取得の対価に充てられたものとして、負債の利子を計算することができる。
例)必要経費が100万円(うち負債利子20万)で、収入が50万円だった場合、赤字は50万円だが、負債利子分の20万円は含められないので、損益通算できるのは30万円ということになる。
新設:国外中古建物の不動産所得の損益通算等の特例
令和3年から導入されたこの特例に注意です。
令和3年以後、国外中古建物の不動産所得を有する場合に、その年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合、そのうち、耐用年数を「簡便法」により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の金額については、生じなかったものとみなされます。
これにより、その損失の金額については、国内にある不動産から生じる所得との内部通算および損益通算はできなくなりました。
注意)国外中古建物同士の内部通算は可能。また、この特例は個人のみ対象なので法人は対象外です。
②株式等の譲渡に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額
他の所得の金額と、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の損失の金額を通算することは原則としてできない。ただし、上場株式等の譲渡同士や一般株式等の譲渡同士の内部通算はできる。この場合、配当控除を適用することはできない(損益通算は申告分離課税、配当控除は総合課税)。
③土地建物等の譲渡に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額
他の所得の金額と、土地建物等の譲渡に係る譲渡所得等の損失の金額を通算することはできない。ただし、一定の居住用財産の譲渡損失に限り損益通算および繰越控除が認められている。また、土地建物等の譲渡同士の通算はできる。
④生活に通常必要でない動産に係る所得(譲渡所得、不動産所得)の計算上生じた損失の金額
生活に通常必要でない動産とは、通常本人やその親族等が居住の用に供しない家屋で、主として趣味・保養等の目的で所有する不動産(別荘など)、主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権等)、生活の用に供する動産で、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属類・書画・骨とう品等をいう。なお、譲渡所得内での内部通算はできる。
⑤非課税所得の計算上生じた損失の金額
たとえば、生活用動産(通勤に使う自家用車など)がこれにあたります。利益が出ても非課税ですが、その代わり損失が出ても通算できないわけです。
⑥個人に対して資産を時価の2分の1未満で譲渡したことによる譲渡所得の損失の金額
損益通算のタイミング
- 一時所得:特別控除後(50万円)で2分の1を乗じる前
- 総合課税の短期譲渡所得:特別控除後
- 総合課税の長期譲渡所得:特別控除後で2分の1を乗じる前
- 退職所得:2分の1を乗じた後
損益通算の順序
一次通算
不動産所得または事業所得の損失は、経常所得のうち黒字の所得から差し引き、譲渡所得の損失は、一時所得(特別控除後で2分の1前)から差し引く。
経常所得グループ(利子・配当・不動産・事業・給与・雑)、他グループ(譲渡・一時)
二次通算
一次通算して残った損失は、他のグループの黒字から差し引く。
経常所得グループ+他グループ=総所得
三次通算
それでも残った損失は、第三次通算をする。
総所得+山林&退職
D分野「01.所得税の概要」の表も参考にしてください。
損失の繰越控除および繰戻還付
純損失の繰越控除
純損失の金額とは、損益通算の対象となる損失の金額のうち、損益通算の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額をいう。損益発生年が青色申告の場合には、純損失の全額を翌年以降3年間繰越控除することができる。
この規定の適用を受けるためには、純損失発生年において青色申告書を提出し、その後は白色でも構わないので連続して確定申告書を提出することが必要である。
純損失の繰戻還付(青色申告者のみ)
青色申告者は、その年に純損失の金額が生じた場合は、損失申告書とともに還付請求書を提出することにより、前年分の所得税のうち一定の金額の還付を受けることができる。
雑損失の繰越控除
その年の所得金額から雑損控除の額を控除しきれない場合は、残った雑損失の金額を翌年以後3年間繰越控除することができる。
外部リンク:国税庁
損益通算・繰越控除に関する過去問を解いてみましょう。2021年5月試験 学科 問27
居住者であるAさんの2020年分の各種所得の金額が下記のとおりであった場合の総所得金額として、次のうち最も適切なものはどれか。なお、記載のない事項については考慮しないものとし、▲が付された所得金額は、その所得に損失が発生していることを意味するものとする。
所得金額 | 備考 | |
---|---|---|
不動産所得 | ▲100万円 | ・不動産賃貸業を営むことによる所得 ・不動産所得の金額の計算上の必要経費に 当該所得を生ずべき土地の取得に 要した負債の利子20万円を含んだ金額 |
事業所得 | 50万円 | ・個人商店を営むことによる所得 ・青色申告特別控除後の金額 |
一時所得 | 180万円 | ・変額個人年金保険(終身年金)の解約返戻金 を受け取ったことによる所得 |
雑所得 | ▲40万円 | ・外貨預金で為替差損が生じたことによる所得 |
- 50万円
- 55万円
- 60万円
- 75万円
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解答
4
まず先に経常グループの(ふじさんじょう)の不動産と事業所得を通算します。雑所得はそもそも他グループと通算できないので除外です。
▲50万になるのですが、土地の負債の利子20万円は他のグループに損益を持っていけないので無効になりますから▲30万円です。
次に▲30万円と二次グループの一時所得を通算します。
180万円-30万円=150万円
一時所得の150万円のみが残ったのでこれを全額2分の1できます。
150万円÷2=75万円
答えは75万円の4番となります。
一時所得の2分の1のタイミングさえ間違えなければこの問題は対処できると思います。
一時所得を超える金額が残ってしまう場合は一時所得分を2分の1してから合計します。ここを注意です。
あと一時所得がマイナスになったケースもあります。これは次のページの過去問チャレンジをご参考に♪
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