中小企業・個人事業主の納税猶予と免除|FP1級Wiki
FP1級実技試験の事業承継パターンでは必須項目の非上場株の納税猶予です。当然、学科でも出ますから将来の実技試験を見越して完璧に頭に入れておきましょう。重要項目です。基本となる一般措置と時限措置である特例措置。その違いをおさえましょう。中小企業が会社を跡継ぎに引き継ぐための納税猶予免除制度と、個人事業主の事業用資産の相続税納税猶予制度があり、そこも非常に大事です。また、いずれも贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へと移行していくことができますので時間の流れを意識しながら学習すると良いと思います。
贈与税の納税猶予および免除(一般措置)
会社の後継者が認定贈与承継会社の先代経営者から、その会社の非上場株の全部または一定以上の贈与を受けた場合、その先代経営者が亡くなるまでの間、その贈与で発生した贈与税を全額猶予する制度。
効果:発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでを上限とし、贈与税の全額を猶予する。
そして、その贈与者(先代経営者)が死亡すると猶予されていた税額は免除となり、非上場株は相続で取得したものとみなされ相続税の課税対象に移行する。そこでさらに一定要件を満たせば後述の相続税の納税猶予を活用することができる。
相続時精算課税制度での贈与も対象
適用要件
贈与者(先代経営者)の要件
- 認定贈与承継会社の代表者であったこと
- 贈与時において会社の代表権を有していないこと
- 同族関係者と合わせた議決権数の合計が、認定贈与承継会社の総議決権数の50%を超え、かつ、その同族関係社内で経営承継受贈者(後継者)を除き筆頭株主であること
- その他一定の要件を満たすこと
経営承継受贈者(後継者)の要件
贈与により非上場株を取得した個人で、贈与時に次の要件をすべて満たすこと(適用者は1つの会社で1人)
- 認定贈与承継会社の代表者であること
- 贈与日現在成人していて、かつ、役員就任から継続3年以上経過していること
- 同族関係者と合わせた議決権数の合計が、認定贈与承継会社の総議決権数の50%を超え、かつ、その同族関係者内で筆頭株主となること
- その他一定の要件を満たすこと
会社の要件と、その事業継続要件(経営贈与承継期間)
後述の相続税の納税猶予と同じ
猶予税額の免除または納付について
後述の相続税の納税猶予と同じ
相続税の納税猶予および免除(一般措置)
会社の代表だった被相続人(先代経営者)から経営承継相続人(後継者)が相続または遺贈により非上場株を取得した場合、納付すべき相続税額が猶予される。
効果:発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでを上限とし、課税価格80%に対応する相続税額を後継者の死亡の日まで猶予する。
適用要件
被相続人(先代経営者)の要件
- 認定承継会社の代表者であったこと
- 死亡の直前において、同族関係者と合わせた議決権数の合計が、認定贈与承継会社の総議決権数の50%を超え、かつ、その同族関係者内で経営承継相続人(後継者)を除き筆頭株主であること
- その他一定要件を満たすこと
経営承継相続人(後継者)の要件
相続・遺贈により非上場株を取得した個人(親族以外も可)で、次の要件をすべて満たすこと(適用者は1つの会社で1人)
- 原則、相続開始の直前において、認定承継会社の役員であること
- 相続開始の翌日から5カ月を経過する日において認定承継会社の代表者であること
- 相続開始時において同族関係者と合わせた議決権数の合計が、認定承継会社の総議決権数の50%を超え、かつ、その同族関係者内で筆頭株主となること
- 相続税の申告書の提出期限までに株式を全部保有していること
- その他一定の要件を満たすこと
会社の要件
経営承継円滑化法に規定する都道府県知事の認可を受け、以下の要件をすべて満たす
- 常時使用従業員1人以上
- 非上場会社
- 中小企業者
- 一定の資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないこと(一定の要件を満たすものを除く)
- 風俗営業会社じゃないこと
- その他一定の要件を満たすこと
事業継続要件(経営承継期間)
相続開始後5年間は以下の要件を満たす
- 経営承継相続人=代表者であること
- 役員を除いて、承継期間の平均で雇用の8割以上をキープすること(端数切捨て、1人しかいない場合は1人とする)
- 相続した株式を継続保有すること
- 5年間は毎年年次報告書を提出(都道府県知事)
- 5年間は毎年、その後は3年ごとに継続届書を提出(税務署長)
担保提供等
納税を猶予してもらうには担保の提供が必要。しかし適用を受ける非上場株のすべてを担保として提供すれば認められる。
猶予税額の免除または納付
免除
以下の場合、免除となる。
- 経営承継相続人(後継者)が死亡時まで保有し続けた場合
- 経営承継相続人が経営承継期間(5年間)にやむを得ない理由で代表者を辞めて次の経営者に株を贈与し贈与税の納税猶予を受ける場合
- 経営承継期間経過後に贈与税の納税猶予を適用して株を贈与した場合
- 経営承継期間経過後に破産手続き開始の決定があった場合など一定の場合
納付
以下の場合、全額を納付する。
- 経営承継期間(5年間)経過前にやむを得ない理由で代表じゃなくなる場合
- 一定の基準日における雇用平均が8割を下回った場合
- 認定取消事由に該当する場合
また、経営承継期間経過後に、譲渡した場合は譲渡した株の割合に応じて猶予税額を納付する。
利子税
猶予税額の全部や一部を納付する場合には法定申告期限からの期間に係る利子税を納付する。
ただ、猶予期間が5年を超える場合は承継期間の利子税は0%に軽減されます。
非上場株式等についての相続税&贈与税の納税猶予および免除(特例措置)
2018年度税制改正から事業承継税制の特例が創設された。
本特例は2018年1月1日から2027年12月31日までの間に取得する非上場株の贈与・相続税に適用できる。
猶予割合が一般措置より拡大する
特例後継者が特例認定承継会社の代表だった者から取得したすべての株式の、贈与税・相続税の全額を後継者の死亡日まで猶予する。
株数の制限や金額の制限などが無くなり使いやすくなっているのがわかる。
特例後継者
後継者1人の場合:同族関係者の中でも最も多くの議決権数を有することとなる者。
後継者2人以上の場合:各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らない者。
贈与税の納税猶予の追加要件:贈与時に20歳以上かつ3年以上にわたり継続して役員であること
相続税の納税猶予の追加要件:相続直前に役員であること(被相続人が60歳以上の時)
特例認定承継会社
特例承継計画を都道府県知事に提出した会社で経営承継円滑化法12条1項の認定を受けた会社
資産保有型会社(特定資産合計が帳簿総額70%以上)は原則適用できない。
しかし以下の条件を満たせば例外的に認められる。
- 事務所を構えていること
- 3年以上事業継続した実績がある
- 常勤の従業員5人以上(親族以外)
特例承継計画
認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画で、後継者や承継時までの経営見通し等が記載されたもの。都道府県知事に提出し確認を受ける。また、相続開始後の場合は相続開始翌日から8ヵ月以内に申請を行う。
雇用確保要件(8割以上キープ)も緩和される
一般措置の雇用確保要件(雇用の8割以上の維持)を満たさなくても納税猶予を維持することができる。(一定の書面提出が必要)
適用対象者の拡大
特例認定承継会社の代表だった者以外からの贈与・相続・遺贈での株式取得でも適用できる。また、最大3人への承継も適用できる。この場合は、先代経営者の贈与以後一定の期間内に行われたものに限る。
特例後継者が贈与者の推定相続人以外の場合
特例後継者が推定相続人以外のの者であっても、贈与者が60歳以上で後継者が成人していれば相続時精算課税制度の適用を受けられる。
個人事業者の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度
個人事業主のスムーズな事業承継のための制度。個人商店は株はないですから、特定事業用資産※の贈与について納税猶予してくれます。
制度を利用するには、承継計画を都道府県知事に提出し、認定を受ける必要があります。
※ 特定事業用資産とは:被相続人の事業(不動産貸付事業等は除く)に供された土地(400㎡)と建物(床800㎡)及び建物以外で貸借対照表に計上される減価償却資産(機械、車両、生物など)のこと
この制度の適用を受けるための主な要件
後継者の主な要件
- 贈与の日において成人していること
- 円滑化法の認定を受けていること
- 贈与の日まで引き続き3年以上にわたり、特定事業用資産に係る事業(同種・類似の事業等を含みます。)に従事していたこと
- 贈与税の申告期限において開業届出書を提出し、青色申告の承認を受けていること
- 特定事業用資産に係る事業が、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
先代事業者等の主な要件
⑴ 贈与者が先代事業者である場合
- 廃業届出書を提出していること又は贈与税の申告期限までに提出する見込みであること
- 贈与の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を青色申告書により提出していること
⑵ 贈与者が先代事業者以外の場合
- 先代事業者の贈与又は相続開始の直前において、先代事業者と生計を一にする親族であること
- 先代事業者からの贈与又は相続後に特定事業用資産の贈与をしていること
その他の注意事項
- 認定受贈者(成人であること)が贈与により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合に担保を提供することで贈与で取得した特定事業用資産に係る贈与税の納税が猶予されます。(2028年12月31日まで)
- 受贈者が推定相続人以外の者であっても年齢条件を満たしていれば相続時精算課税の適用を受けられます。
- 猶予税額の納付や免除については後述の相続税猶予制度と同じ
- 贈与者の死亡時には特定事業用資産を贈与者から相続等により取得したものとみなして、贈与時の時価で相続税を計算します。その際に相続税の納税猶予制度の適用を受けられる。
個人事業者の事業用資産に係る相続税の納税猶予制度
認定相続人※が相続で特定事業用資産を取得し、担保を提供するのを条件に特定事業用資産分※の相続税の納税を猶予してもらえる制度です。制度を利用するには、贈与税の例と同じく承継計画を都道府県に提出し、認定を受ける必要があります。
※認定相続人とは:承継計画に記載された後継者で、法律の規定による認定を受けた者
※ 特定事業用資産とは:被相続人の事業(不動産貸付事業等は除く)に供された土地(400㎡)と建物(床800㎡)及び建物以外で貸借対照表に計上される減価償却資産(機械、車両、生物など)のこと
猶予税額の免除
猶予税額が全額免除される場合
- 認定相続人が死ぬまでその資産を保有し、事業継続した場合
- 認定相続人が一定の身体障害になった場合
- 認定相続人について破産手続き開始の決定が下った場合
- 相続税の申告期限から5年経過後に次の後継者へ資産を贈与し、次の後継者が納税猶予制度の適用を受ける場合
猶予税額が一部免除される場合
- 同族関係者以外の者へ資産を一括譲渡する場合
- 民事再生計画の認可決定があった場合
- 経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特定事業用資産の一括譲渡または事業の廃止をするとき
猶予税額の納付
- 認定相続人が特定事業用資産に係る事業を廃止した場合等(猶予税額の全額を納付)
- 認定相続人が特定事業用資産の譲渡等をした場合(譲渡した部分の猶予税額を納付)
その他
- 被相続人も相続人も青色申告の承認を受けている&受ける見込みがあること
- 認定相続人は相続税の申告期限から3年ごとに継続届出書を税務署に提出すること
- 認定相続人は相続税の申告期限から5年経過後に特定事業用資産を現物出資し法人化した場合、株式を保有することや一定の要件を満たせば納税猶予を継続できる。
- 特定事業用宅地について小規模宅地についての相続税の課税計算の特例を受けることができない。←これとても重要です
外部リンク:国税庁
それでは過去問を解いてみましょう。2019年9月試験 学科 問50
2019年度税制改正により創設された「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除」(以下、「本制度」という)に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
- 本制度の適用を受けるためには、後継者である相続人は、相続税の申告期限において、特定事業用資産に係る事業について開業の届出書を提出しており、かつ、青色申告の承認を受けているまたは受ける見込みがなければならない。
- 本制度の対象となる特定事業用資産は、被相続人の事業の用に供されていた宅地等または建物に限られ、宅地等については400㎡以下の部分、建物については床面積800㎡以下の部分が対象となる。
- 相続または遺贈により特定事業用資産を取得した相続人が本制度の適用を受ける場合、当該相続における相続税額の計算上、特定事業用宅地等について「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることはできない。
- 相続または遺贈により特定事業用資産を取得した相続人が本制度の適用を受けた場合、当該相続人が納付すべき相続税額のうち、本制度の適用を受ける特定事業用資産の課税価格に対応する相続税額の全額の納税が猶予される。
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解答
2
2は正解ですが、宅地建物に限らず機械や車両もありますね。不適切。
1は、青色が確かに必要です。適切。
3は、そうなんです。小規模宅地との選択になるので悩みどころです。
4は、全額の納税が猶予されます。事業さえ続けていけば期限もありません。