法人の生命保険経理(仕訳) | FP1級受験攻略Wiki

法人が社員を被保険者にして生命保険に加入する場合の経理処理の問題です。
法人の目的は、社員の福利厚生と利益の圧縮です。
会社としては生命保険で損金益金を調整して効率的に会社の収益を回したいわけです。
ざっくり言うと貯蓄として認められてしまう部分は積立金扱い(資産計上)となり、社員のために保障を掛けてあげてるんだなーって見られる部分は損金として扱える(その代わり受取発生時に一気に益金発生)。そんな感じです。これらが保険種類でいろいろ変わってきます。
FP1級試験では複式簿記を使った仕訳の問題が多く出ます。
商業科出身の人はいいですが、工業出身の自分は大変苦手な項目です(工業も学んでないんだけど)。
自分にも分かるようにできるだけ簡単にまとめます。

まず生命保険の契約形態ですが、保険種類が大きくは、貯蓄型、保障型とで分かれます。
種類によって仕訳表の書き方も変わってきます。仕訳表の基本形からまとめていきます。
試験対策に特化してますので間違ってたらすみません。

       

仕訳の基本的な形

貯蓄型保険(保険料支払)

借方(受)貸方(払)
保険料積立金  100万円(資産計上)現金・預金  100万円

この仕訳表は、貯蓄性の養老保険の保険料を100万円払った例です。

最初だけ分かりやすく赤字で表示しましたが、これを預金通帳だと思ってもらうと、貸方が払(マイナス)の項目。借方が受(プラス)の項目です。保険料を支払っているので、現金が払いのほうに100万円いっています。払いの出来事が起きた場合、借方の項目にはその内容が記載されます。「現金マイナス100万ねー。で、その現金は何の支払いなの?」ってことです。で、借方の項目を見てみると100万まるまる保険料積立金となっているので、「保険料積立金ってことは100万払ったって言っても後で返ってくるのねー。じゃぁ資産計上ね。」ってことです。

つぎに保障性保険(掛け捨て保険)の場合はどうでしょう。

保障性保険(保険料支払)

借方貸方
定期保険料  100万円(損金計上)現金・預金  100万円

今度は定期保険や医療保険などの掛け捨て保険の場合。保険料100万円として払った現金がそのまま定期保険料として上がっています。
この場合の100万円はすべて損金として落とせます。

       

10年払込15年定期保険の例

借方貸方
定期保険料 100万円(損金計上)
前払保険料  50万円(資産計上)
現金・預金  150万円

その他、一時払い、前納払いなどの場合も保険期間で按分され、先に払い込んでいると思われる部分は前払保険料として資産計上となります。
上記の例は10年間保険料を払って、15年後に終了する保険。
保険料の全額を先に全額損金で落とさせないように保険期間の15年間で平均化されてしまうということです。

つぎは、保険金を受け取った例(受)です。

保険金受取

養老保険(保険期間10年、月保険料100万円)[契約者:法人 被保険者:会社員 満期受取人:法人] 

借方貸方
現金・預金 1100万円保険料積立金 1000万円     
雑収入  100万円(益金として計上)

100万円の保険料を10年払い、1100万円の満期保険金を法人が受け取った例です。

いままで払ってきた保険料積立金を取り崩し、積立と満期の差額のみ雑収入として益金に計上します。これを定期保険で受取保険金が発生したと考えた場合は、全額掛け捨て(貯蓄性がない)ですので普段の保険料は全額損金に上げています。差し引けるものは無く、貸方欄はすべて雑収入となり全額益金計上となります。

       

養老保険(保険期間10年、月保険料100万円)[契約者:法人 被保険者:会社員 死亡受取人:遺族]

借方貸方
雑損失 1000万円(損金として計上)保険料積立金 1000万円

死亡保険金受取人を被保険者の遺族にした場合に、死亡保険金が発生した例です。この場合、死亡保険金がいくらであろうが会社には関係ないので一切計上しません。いままで払ってきた(いままで資産計上してきた)保険料積立金を雑損失としてまとめて損金計上します。ちなみにこれが保障性保険だった場合ですが、保険料は普段から損金に上げていますし、死亡保険金はそのまま遺族に渡るのでプラスもマイナスもありません。

ここまでが仕訳の基本形となります。よろしいでしょうか?ここ踏まえた上で、特別な経理処理をする保険種類や手続きがあり、FP1級試験ではこの先の部分が出題されてきます。

       

特別な仕訳の形

解約返戻率の高い定期保険や第三分野保険の保険料

企業の経理上のパフォーマンスを高めるために保険会社は契約前半期間だけの返戻率を異常に高めた生命保険を開発してきました。返戻率が下がる前に途中で解約しちゃうわけです。そこで法律改正が行われ、2019年7月8日以後の契約については返戻率に応じた経理処理を行う形に修正されました。終身保障の第三分野保険については116歳までの期間を保険期間とみなして計算するようになったため、まったく旨味がなくなってしまいました。

2019年7月8日以後契約の、返戻率の高い定期保険および第三分野保険の表

最高解約
返戻率
資産計上期間資産計上割合
(前払保険料)
取崩期間経理処理
50%以下なし(全額損金処理)なしなし
50%70%以下前半40%相当期間経過まで40%資産
60%損金
保険期間75%経過後から
保険期間終了まで均等に崩す
70%85%以下前半40%相当期間経過まで60%資産
40%損金
保険期間75%経過後から
保険期間終了まで均等に崩す
85%最高解約返戻率になる期間まで

もしくは

その時期を経過した後で、(その年の解約返戻額-前年の解約返戻額)÷年換算保険料額が70%を超えなくなるまで

※資産計上期間が5年未満となってしまう場合は5年とします。(保険期間が10年未満の保険なら5割経過後から)
10年目まで
最高解約返戻率×90%

11年目から
最高解約返戻率×70%

残りが損金
資産計上期間経過後は均等に取り崩して損金算入
※解約返戻率が高いポイントが複数ある場合はもっとも遅い時期からで考える

※返戻率が50%未満なら基本形の定期保険みたいに全額損金可能ということですね♪

次に該当する保険等は、期間の経過に応じて支払保険料の全額を損金算入する。

  • 最高解約返戻率が50%以下の契約
  • 最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険保険料相当額(支払保険料総額÷保険期間)が30万円以下の契約
  • 保険期間が3年未満の契約
       

(例)最高解約返戻率50%超70%以下の保険
30年定期保険 年間保険料300万 最高解約返戻率68% 

それではこの保険の場合の仕訳をしてみます。前半12年で作らされた資産計上額1440万円を23.5年後から資産取崩で損金を取り返していく感じです。この仕組みにより途中返戻率が高い保険でも公平に経理できるようになりました。

借方貸方
1~12年目支払保険料 180万円(損金計上)
前払保険料 120万円(資産計上)
現金・預金 300万円
13~22年目支払保険料 300万円(全額損金)現金・預金 300万円
23年目
(半年分を資産取崩開始)
支払保険料 396万円現金・預金 300万円
前払保険料  96万円(資産取崩)
24~30年目支払保険料 492万円現金・預金 300万円
前払保険料 192万円(資産取崩)

以下に挙げる保険については全額損金算入できます。

  • 解約返戻率が50%以下の契約
  • 解約返戻率が70%以下で(支払保険料総額÷保険期間)が30万円以下の契約
  • 保険期間が3年未満の契約
       

2019年7月7日以前契約の長期平準定期保険・逓増定期保険

2019年に改正されたばかりですから、仕訳の問題としては古いほうが出題される可能性は充分考えられます。
この日までに加入した保険は現在でもこの経理処理ができますからね。
逓増定期保険は保険期間が長くなるにつれ保険金額が増額していく保険です。
保険金受取時は資産計上を取り崩して損金算入し、差額を雑収入として益金処理します。

下記の表の逓増定期保険については2008年2月28日以後の契約に限ります。

保険終了時の年齢被保険者の契約時年齢+保険期間×2保険期間前半6割相当期間(1年未満の端数は切捨)
長期平準定期保険70歳超105超半分資産計上
半分損金算入
逓増定期保険①(②③除く)45歳超半分資産計上
半分損金算入
逓増定期保険②(③除く)70歳超95超3分の2資産計上
3分の1損金算入
逓増定期保険③80歳超120超4分の3資産計上
4分の1損金算入
保険期間前半6割相当期間経過後はどのケースでも、保険料全額を損金算入。資産計上していた前払保険料は残り期間に応じて取崩し損金算入。

2019年7月7日以前契約のがん保険(終身型)(2012年4月27日以降契約)

終身保険ですが、この時のがん保険は経理上105歳までの期間を保険期間とします。

終身払込タイプ経理処理
前払期間50%前払保険料として資産計上 50%を保険料として損金算入
前払期間経過後保険料を全額損金算入。資産計上していた前払保険料は残り期間に応じて取崩し損金算入。
有期払込タイプ経理処理
払込期間終了まで当期分保険料の50%と当期分を超える分と判断される分の金額を資産計上。残りを損金算入。
※当期分保険料とは年額保険料×(保険料払込期間÷保険期間)
払込期間終了後保険料を全額損金算入。先に資産計上していた額から残り期間に応じて取崩し損金算入。
       

福利厚生プラン(ハーフタックス)

会社の全社員役員を加入させることを条件に養老保険の保険料2分の1を福利厚生費として損金算入できるプランです。
契約者:法人 被保険者:全社員役員 死亡保険金:遺族 満期保険金:法人

保険料支払い時(例:保険料年額100万円)

借方貸方
保険料積立金 50万円
福利厚生費  50万円
現金・預金 100万円
       

満期保険金受取時(例:保険料年額100万円 10年満期1000万円)

借方貸方
現金・預金  1,000万円保険料積立金  500万円
雑収入     500万円

保険料積立金(資産計上)の取崩分を損金とし、差額を雑収入で益金とします。

死亡保険金(例:保険料年額100万円 5年後に死亡で1000万円が遺族に支払われたケース)

借方貸方
雑損失 250万円保険料積立金 250万円

ハーフタックスは死亡保険金は遺族が受取人であるため、法人で保険金を資産計上しませんが、いままで払ってきた保険料積立金の部分をすべて損金計上します。
役員社員の全員加入、または普遍的加入に該当されない場合は福利厚生費の部分がすべて「給与」扱いになってしまうため注意が必要です。

       

契約の見直し例

払済終身保険への変更例

保険期間中に払済保険(いままで払ってきた保険料で作れるサイズの保険に減額して払込完了にする手続き)に変更した場合は、変更時の解約返戻金相当額と資産に計上してきた保険料との差額で、益金や損金を計上する。下記仕訳表は100万円差額が益金になった例。

借方貸方
保険料積立金 300万円前払保険料  200万円
雑収入    100万円

また、契約転換制度を使用する場合には、転換方法による保険種類に応じた経理処理が必要。

退職時名義変更の経理処理(会社で掛けてた保険を退職者にあげる場合)

役員の退職の時に退職金といっしょに生命保険を名義変更して支給する場合。解約返戻金受取相当額を損金として計上し、現金と解約返戻金相当額をいっしょに退職金で経理してください。退職金(現金)にかかる源泉徴収税は預り金として負債計上としてください。差額はプラスなら雑収入で益金、マイナスなら雑損失で損金です。

借方貸方
退職金 4,000万円前払保険料   800万円
現金・預金  2,720万円
預り金     280万円
雑収入     200万円
       

法人の生命保険経理(仕訳)を過去問から学ぶ

2017年9月のFP1級試験に超難問が出ているのでここから学びます。

X株式会社(以下、「X社」という)が、代表取締役社長であるAさんの死亡により、下記の収入保障保険から、収入保障年金額(年額)を500万円に減額して4,600万円を一部一括受取りとし、1回目の収入保障年金額との合計5,100万円を受け取った場合の経理処理として、次のうち最も適切なものはどれか。

保険の種類:無配当収入保障保険(特約付加なし)
契約年月日:平成21年10月1日
契約者(=保険料負担者):X社
被保険者:Aさん(代表取締役社長)
死亡保険金受取人:X社
保険期間・保険料払込期間:10年
正味払込保険料(累計額):900万円
収入保障年金額(年額) :1,000万円(10年間)
※年金受取開始時に、年金での受取りに代えて一括で受け取った場合の金額は9,200万円である。

(1)

借方貸方
現金・預金 5,100万円保険料積立金 450万円
雑収入   4,650万円

(2)

借方貸方
現金・預金 5,100万円雑収入 5,100万円

(3)

借方貸方
現金・預金 5,100万円
未収金   4,100万円
保険料積立金  450万円
雑収入    8,750万円

(4)

借方貸方
現金・預金 5,100万円
未収金   4,100万円
雑収入 9,200万円
       

↓正解は↓

大変な意地悪問題で、そこら辺のテキストには載っていない問題です。
まず収入保障保険というのは最近出てきた(最近でもないか)定期保険の一種で、普段保険料は全額損金で上げている商品です。
ですので死亡時は全額益金となる訳ですが、設問では一部をまとめて受け取って、残りを分割受取としています。
すごくいやらしい問題です。

  • 分割受取の場合は受け取った金額を受け取った年ごとに益金経理をしていきます。
  • 一括受取の場合は当然、受け取った年に全額益金として経理をします。

では、設問のような混ぜこぜの場合はどうなるのか?
答えは「その年に全解約したのと同じ経理をする」です。
本来の解約返戻金が9,200万円
現金・預金が4,600万円+500万円=5,100万円 9,200万円-5,100万円=未収金が4,100万円ということです。

実際受け取るのは一括受取が4,600万円、分割受け取り分が500万円×10年で5,000万円で9,600万円になる訳なのですが、あくまでも解約したのと同義として扱い、その年に経理してしまうわけです。

正解は4番です。

Wiki技能士

上記のような問題はかなり特殊な出題例なので、
経理畑の方でなければマスターしなくても良いかもしれません。
特に基礎編では加点はすべて1問2点なのですから、
自分の得手不得手を考えて戦略を立てましょう。

外部リンク:国税庁
タグ:法人の生命保険経理(仕訳)

2022年03月15日