労働者災害補償保険(労災) | FP1級Wiki
労災保険は業務上の事故(業務災害)と通勤途中の事故(通勤災害)を補償する制度です。
雇用形態を問わず1人でも雇っていれば強制的に適用事業所となりますし、
原則として正社員、日雇、派遣社員、契約社員、パート、アルバイト等の雇用形態にかかわらず、
すべての労働者が適用対象となります。
保険料は賃金に事業ごとに異なる労災保険料率を掛けて算出し、全額事業主負担。
試験では通勤災害の認定判断と、各種給付について出題されることがあります。
業務災害
業務災害とは、業務が原因となった病気やケガおよび死亡(傷病等)をいう。
業務と事故との間に一定の因果関係があることを「業務上」といいます。
業務災害に対する保険給付は、労働者が事業所に雇われて、
その事業主の支配下にあるときの業務が原因となって発生した災害に対して行わる、業務の性質を持つ災害。
最近多い在宅ワークやコワーキングスペースなどでの業務も、その所在および業務遂行性・起因性を明確にしておけば対象となります。
通勤災害
通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。
「通勤」とは就業に関し、
- 住居と就業場所との間の往復
- 単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
- 就業場所から他の就業場所への移動を、合理的な経路及び方法で行うこと。
※業務の性質を有するものを除きます←業務命令の移動は業務災害になる
なお、通勤の途中で逸脱または中断があると、その後は原則として通勤とはなりませんが、日常生活上必要な行為(日用品の購入など)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び「通勤」となります。←試験にでました
※それにしても「日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う」ってすごい言い訳じみてて厭(*´Д`)
実際に出題された事例から
事例(過去問より抜粋) | |
---|---|
業務災害 | ・遠方の取引先を訪問するため、前日から出張して取引先の近くにあるホテルに宿泊した労働者が、 翌朝、ホテルから取引先へ合理的な経路で向かう途中、歩道橋の階段で転倒して足を骨折した場合 ・業務上の疾病により療養していた労働者が、疾病が治って業務に復帰後、その疾病が再発した場合 ・労働者がトイレに行こうとして席を立ち作業場を離れたところ、廊下に積んであった箱が崩れてき て頭を負傷した場合 ・昼食時、労働者が自社の別フロアーにある社員食堂に移動する際に利用したエレベーターが誤作動 し、扉に挟まれて腕を骨折した場合 ・取引先との打合せがあるため、前日の夜から出張して取引先の近くにあるホテルに泊まった労働者 が、翌朝、ホテルから取引先へ向かう途中、歩道橋の階段で転倒して足を骨折した場合 ↑ほぼひとつ目と同じネタが出題されています! |
通勤災害 | ・労働者が、就業場所から住居までの帰路の途中、合理的な経路を逸脱して理髪店に立ち寄り、 散髪を終えて合理的な経路に復した後に交通事故に遭って負傷した場合 ・単身赴任先で住居を借りて生活をしている労働者が、週末に自宅に帰省し、 週明けに自宅から単身赴任先の就業場所に出勤する途中、 駅の階段で転倒して足首を捻挫した場合 ↑単身赴任の帰省や自宅からの赴任先の職場への通勤は通勤災害なります |
その他 | ・派遣労働者が、派遣元事業主と労働者派遣契約を締結している派遣先で 業務に従事している間に、業務上の負傷をした場合。 A.派遣元事業主の労災が適用されます |
保険給付
労災の保険給付は、業務災害だと「補償給付」、通勤災害だと「給付」と呼びますが、内容は同じです。
下記の表の特別支給金の欄で青字にしてあるところは特別加入者には支払われない部分です。
※特別加入者とは本来、労災の加入対象外であるが、労災の保険関係が成立しているなど一定の要件を満たすことで任意加入した者。
中小事業主(労働保険事務を労働保険事務組合に委託すること)、1人親方、タクシー運転手、海外派遣者などが主な対象者で、他に下記の者も対象です。
- 芸能関係作業従事者
- アニメーション制作作業従事者
- 柔道整復師
- 創業支援等措置に基づき事業を行う方
などの職業の者も特別加入対象者となったので覚えておきましょう。
病気やケガの給付←ここが試験に出やすい
保険給付の種類 | 支給事由 | 保険給付の内容 | 特別支給金 |
---|---|---|---|
療養(補償)給付 | 傷病について病院等で 治療する場合 | 治療費を全額補償。 怪我や病気が治るか本人が死亡するまで 支給されるのが特徴。 指定病院であれば無料で治療が受けられ、 指定外なら立替え払い後に費用が支給される。 | ーーーーーーーーーーーーーーー |
休業(補償)給付 | 傷病の療養のため労働することが できない日が4日以上となった場合 ※欠勤当初の3日間は労災保険が適用されず、 会社が休業補償することが義務付けられています。 この際は給付基礎日額の60%を支払うことになります | 休業4日目以降、休業1日につき 給付基礎日額の60%相当額が支給されます 要件を満たす限りは、期間の上限なし。 | <休業特別支給金> 休業4日目以降、休業1日につき 給付基礎日額の20%相当額を支給 |
傷病(補償)年金 | 傷病が療養開始後1年6か月を経過した日 または同日後において ①傷病が治っていないこと ②傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること のいずれにも該当する場合 | 第1級は給付基礎日額の313日分 第2級は給付基礎日額の277日分 第3級は給付基礎日額の245日分が 治療が終了するまで、あるいは 障害給付に移行するまで支給されます | <傷病特別支給金> 第1級は114万円 第2級は107万円 第3級は100万円 を一時金として支給 <傷病特別年金> 障害の程度により算定基礎日額 の313~245日分の年金 |
障害が残ったときの給付
補償給付の種類 | 支給事由 | 保険給付の内容 | 特別支給金 |
---|---|---|---|
障害(補償)給付 | <障害(補償)年金> 傷病が治った後に障害等級第1~7級まで に該当する障害が残った場合 <障害(補償)一時金> 傷病が治った後に障害等級第8~14級まで に該当する障害が残った場合 | <障害(補償)年金の場合> 第1級は給付基礎日額の313日分 ~第7級は給付基礎日額の131日分 の年金が支給されます。 <障害(補償)一時金の場合> 第8級は給付基礎日額の503日分~ 第14級は給付基礎日額の56日分 の一時金が支給されます。 | <障害特別支給金> 第1級342万円~第14級8万円を 一時金として支給 <障害特別年金> 障害の程度(1~7級)に応じ算定基礎日額の 313日分から131日分の年金 <障害特別一時金> 障害の程度(8~14級)に応じ算定基礎日額の 503日分から56日分の一時金 |
介護(補償)給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の 受給者のうち第一級の者 または 第二級の精神・神経の障害および 胸腹部臓器の障害の者で、現に介護を 受けているとき。 | 〔常時介護を要する者〕 最高限度額[171,650円] 最低保障額[73,090円] 〔随時介護を要する者〕 最高限度額[85,780円] 最低保障額[36,500円] |
障害補償年金の変更
障害補償年金を受給中の者が、障害の程度が自然的経過により変化して、新たに他の障害等級に該当する場合には、新たな障害等級に応ずる障害補償年金または障害補償一時金が支給されます。
増額されるのは障害補償年金1~7級の場合のみで、8級以下は追加なしです。
死亡の給付
補償給付の種類 | 支給事由 | 保険給付の内容 | 特別支給金 |
---|---|---|---|
遺族(補償)年金 | 死亡した場合に 被災労働者に生計を 維持されていた 遺族に支払われる(共働き可)。 (年金額は遺族の人数に 応じて異なります) ※受給者が失権した場合、 転給があります。 | 遺族の人数によって支給される額が 異なります。 (遺族1人の場合) 給付基礎日額の153日分 または175日分 (遺族2人の場合) 給付基礎日額の201日分 (遺族3人の場合) 給付基礎日額の223日分 (遺族4人以上の場合) 給付基礎日額の245日分 | <遺族特別支給金> 遺族の人数にかかわらず 300万円を一時金として支給 <遺族特別年金> 遺族の数に応じ、算定基礎日額の 245~153日分の年金 |
遺族(補償)一時金 | ①遺族(補償)年金の受給資格を もつ遺族がいない場合 ②遺族(補償)年金を受けている 方が失権し、かつ、他に遺族 (補償)年金の受給資格をもつ方が いない場合で、すでに支給された 年金の合計額が給付基礎日額の 1000日分に満たない場合 | 左欄の①の場合 給付基礎日額の1000日分 左欄の②の場合 給付基礎日額の1000日分から すでに支給した年金の合計額を 差し引いた額 | <遺族特別支給金> 遺族の人数にかかわらず300万円を 一時金として支給 <遺族特別一時金> 算定基礎日額の1000日分の一時金 (②の場合は、すでに支給した 特別年金の合計額を差し引いた額) |
葬祭料・葬祭給付 | 死亡した方の葬祭を行う場合 | 315,000円に給付基礎日額 の30日分を加えた額 または 給付基礎日額の60日分の いずれか高い方 が支給されます。 |
遺族特別支給金等の支給を受ける同順位の遺族が複数いる場合は,その金額が按分される。
遺族とは
「遺族」は先の順位が総取りするシステムです。労災では以下のようになります。
- 配偶者(妻)もしくは60歳以上か一定障害の夫
- 未成年か一定障害の子
- 60歳以上か一定障害の父母
- 未成年か一定障害の孫
- 60歳以上か一定障害の祖父母
- 未成年か60歳以上か一定障害の兄弟姉妹
- 55歳以上60歳未満の夫
- 55歳以上60歳未満の父母
- 55歳以上60歳未満の祖父母
- 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
このようになります。
遺族の定義はすべての機関のすべての手続きで同じという訳ではありませんので注意が必要です(兄弟姉妹が抜けたり孫が抜けたりするし条件の定義も様々)。
同順位がいた場合には按分することになります。
また、相続人のシステムが「配偶者+〇〇」であるのに対し、遺族は配偶者がいればそこで終わりです。
細かい説明は→遺族 - Wikipedia
令和2年9月1日改正法について
労働者災害補償保険法が改正され、複数の会社を掛け持ちしている人についての保障が手厚くなりました。
給付額については
いままで:事故が起きた勤務先の賃金額のみを基礎に給付額が決定
改正後:すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額が決定
認定方法については
いままで:それぞれの勤務先ごとに負荷を個別評価
改正後:上記の方法で労災認定できない場合は、総合的に評価して判断
外部リンク:厚労省(労災が発生した時)
タグ 労働者災害補償保険
労働者災害補償保険の過去問を解いてみましょう。2014年1月 学科試験 問5
労働者災害補償保険の社会復帰促進等事業として行われる特別支給金に関する次の記述のうち,最も適切なものはどれか。
- 休業(補償)給付の受給権者である労働者に対して支給される休業特別支給金の額は,休業1日につき,原則として休業給付基礎日額の100分の30に相当する額である。
- 障害(補償)給付の受給権者である労働者に対して支給される障害特別支給金は,障害等級の第1級から第7級に該当する者には年金として,障害等級の第8級から第14級に該当する者には一時金として支給される。
- 遺族(補償)給付の受給権者である遺族に対して支給される遺族特別支給金の額は300万円であり,遺族特別支給金の支給を受ける同順位の遺族が複数いる場合は,その金額が按分される。
- 遺族(補償)年金の受給権者である遺族に対して支給される遺族特別年金の額は,支給対象となる遺族が1人の場合,原則として算定基礎日額の245日分である。
↓正解は↓
3番です。
この問題は労働者災害補償保険に関する問題というより、
「遺族」に関する問題と言った方がいいかもしれません。
「相続人」と「遺族」。
実務が無い方は良く混乱されますが条件が異なります。
改めて確認しておきましょう。
2021年09月03日